写メール面接
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谷九で働きたい人妻さんを募集している。至るところで募集している。「どこで募集しているのか?」と気になった方もいるだろう。コンビニか、喫茶店か、スーパーか、ファミレスか……? 否否、千遍否である。募集しているのはヘルスだ。ヘルスというと、直訳すれば「健康」を意味する。そう、男を健康に――つまり元気にさせるお店のことだ。まだピンと来ない向きもいらっしゃるかもしれない。元気にさせるといっても、べつに病院とか、そういうところではない。「えっ! 病院じゃないの? だったらどこよ?」と素っ頓狂な声をお上げになった貴女、少し考えていただきたい。冷静に、ここまでの話の流れを顧みていただきたい。私は「谷九で働きたい人妻さんを募集している」と冒頭で、開口一番に述べたはずだ。よくご覧いただきたい――谷九で働きたい「人妻さん」を募集しているのだ。人妻さんである。ここがミソである。おわかりであろうか? 普通の病院の求人募集で「人妻募集」なんて書いてあったら、ゾッとするだろう。院長の趣味じゃねえか――と内心で唾を吐き捨てるところだろう。日本全国の田舎の病院まで含めて、血眼になって探し回れば、「人妻募集」をしている病院も、もしかしたらあるかもしれない。そんなところにわざわざ応募するのは、よっぽどのスキモノ妻だけだろう。いや、スキモノ妻が全国に少ないといっているわけではない。話をスリ替えないでいただきたい。さすがにもう見当がついたことだろう。人妻募集――それは人妻専門の風俗店が提示している募集内容だ。人妻専門の風俗店が人妻を募集しているのは、まさしく理に適っているだろう。風俗店だということで、破天荒な、ダーティな、アンダーグラウンドな、型破りな、ワイルドな、ざっくばらんな、ハードボイルドな、横紙破りなイメージを抱かれるかもしれないが、現実は真っ当なのだ。皆、子どもではない――大人なのだ。それに風俗店と一概にいっても、近年では先ほど列挙したような風俗店の暗いイメージは払拭されつつある。私はこれまでに数々の風俗店の内部を見てきた。業界の裏も表も知っているといっても、きっと罰は当たらないだろう。その私が思うのが、昔と比べて風俗店は一挙にクリーン化されてきたということなのである。不遜ながら、これは重要な意見の一つだと、皆に認識していただきたい。最近、ある谷九風俗店に取材に行ったのだが、店内に入った瞬間、ここは原宿の一流ヘアスタイリストが多数在籍する雑誌でも頻々取り上げられるほどの美容院なのではないか――と思った。そう錯覚するほど、店内は清潔感に満ちており、無駄なものがなく、埃の一つすら浮いていない、なんだったらフローラルな香りまで漂っている、洗練された空間だったのだ。男性スタッフの対応もすこぶる丁寧で、接していて気持ちがよくなるほどだった(ちなみに断っておくが、私に男の趣味があるわけではない。根っからの女好きだ。あくまで対応が清々しかったという意味だ)。さて、女性スタッフの数人にも取材を行なってみた。彼女たちのあいだにはギスギスした雰囲気は一切なかった。しかし、やはりお客の奪い合い、指名の取り合いのような問題はあるのではないだろうか――。どうしても気になった私は和やかなムードが壊れることも覚悟しながら、「ライバルの女の子はいますか?」という質問を彼女らにぶつけてみた。すると――「ライバルの女の子は他店の女の子です」と答えてくれた。私は感動に打ち震えた。ライバルはあくまで他店――。自分のお店がトップに君臨するために、貢献しているのだというのだ。その精神は見上げたものだった。楽しげに仲良さそうに笑う彼女たちに礼をいい、私はその店を去った。そこには、けがらわしさの微塵も感じられなかった。私は過去に中小企業の歯車として働いていたこともあったが、そこで繰り広げられている、自分が地位を上げるためだけの足の引っ張り合いや裏切り、騙し合いを思い返していた。世間にいい顔ばかり向けているくせに、中では泥臭い騙し合いが行なわれている――私は風俗店のほうがよっぽど清々しく真っ当に感じられた。さて、話をそろそろ元に戻そう。谷九で働きたい人妻さんを募集している件である。人妻であればOKなのである。若妻に限らず、熟した人妻も歓迎している店は多々存在する。それぞれに需要があり、人妻はいまや一大ムーヴメントを巻き起こしている。「単なる若い娘はこりごりだ! あいつらはおれを蔑んだ目で見てくる! おれは人妻を一生愛する!」と聞いてもいないのに皆の前で声高らかに宣言した友人を一人知っているが、私もその言葉には心底同感した。若い娘は確かに、魅力である。瑞々しい肌にときめかない男は存在しないだろう。だが、いずれ人は表面上の「体」ではなく「心」を求めはじめる。優しい心、癒しのひとときだ。そして、それに伴って、体の好みも、ピチピチして張りがある肌よりも、少したるみの出てきた肌に変わってくる。さあ、人妻の皆、何も心配することはない。いまこそ時代の流れに乗ろう。人妻というのは女にとっての最大の肩書だ。世の男性はまさに貴女を求めている。
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